すべての悪を取り除く明王。怒りの形相をして、右手に剣、左手に縄を持って、背中に火炎を負っています。
ここでは不動明王をわかりやすく説明し、大阪市内の有名な仏像を案内しています。
意味
不動明王は明王の一つで、密教における五大明王・八大明王の主尊。
大日如来の化身ともいわれ、真言宗や天台宗など密教系の仏寺に見られます。
不動明王の智剣が変じた化身に倶利迦羅龍王がいます。
如来の命を受けたといわれる怒った表情(忿怒形)が印象的。
梵語からの訳が不動威怒明王ですから、とにかく怒ってます。
仏教界の教化部長。鬼教師ですわ。
略語に、不動尊・無動尊・不動使者(大日如来の使者)。密号に常住金剛。
もともとシバ神の異名で、仏教に採り入れられました。
- 大日如来の教令輪身 → 大日如来の教えに煩悩をもつ者の命根を断つ使命をもつ
- 不動使者…奴隷三昧を誓願して大日如来に給侍する
- 行者に奉仕して残食を受ける(業煩悩を尽くす)
キャリア
役割・御利益
行者に対する役割と御利益は4つに分けられます。
- 給仕して諸事を弁じる
- 菩提心を起こさせる
- 悪を断じて善を修する
- 大智慧を得て成仏させる
信仰の広がり
二つの修法をもっています。
- 不動法:息災増益を祈願
- 安鎮法:国家の安泰を祈願
成田不動や目黒不動をはじめ全国的に信仰されています。
形姿
火生三昧に入って一切の罪障を破摧しても動揺しないから不動といいます。
坐像では磐石座に坐して童子形。
忿怒形(お顔)
頂に七髻あって弁髪を左肩に垂らしています。
左眼は細く閉じて、下の歯で上唇を噛む忿怒形。
基本形
仏様の背中にある光背の代わりに猛火。
この猛火を負いながら、右手に利剣を、左手に羂索数珠を持って煩悩を断じる姿が基本形。
「大日経」に説く形姿は2つのパタン。
- 一面二臂像:超人的な姿ではなく、顔が1個、腕が2本。慧刀と羂索を持つ。
- 一面四臂像:顔が1つ、腕が4本。
一般形
不動明王の多くは次の様子。
- 右手に剣、左手に羂索を持ち、頭頂は髪を結ぶか、蓮華をいただき、左肩に髪を束ねて弁髪を垂れている
- 額に水波の皺があり、唇をかみしめて牙を出し、天地眼の像もある
- 仏様や菩薩のように蓮華座に安住せず、大磐石を座として、背面に火焰をまとい、 極忿怒の相を現している
空海や円珍の不動法が流行してからは、たくさんの変化形が出てきました。
たくさんある自由な創作
倶利迦羅不動尊
倶利迦羅不動尊は、明王の像がなく、磐石上に利剣が立ち、そこに倶利迦羅龍王(龍のよう)が巻きついています。
みのり不動尊
私が今までみた不動明王のなかで、一番カラフルでキュートな表情をしたものは国分寺のみのり不動尊です。
苔づくし
本体にうっすらと、周囲にモリモリと苔づくしになっている水掛不動尊がこちら。
霊場
不動明王のお寺めぐりのうち、大阪市内の仏寺を含むものは、2つあります。
- 近畿三十六不動尊霊場
- 大阪四不動霊場
近畿三十六不動尊霊場
大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、奈良県、和歌山県に、古寺顕彰会が中心になって開設した霊場ルート。
近畿三十六不動尊霊場に指定されている大阪市内の仏寺は下図です。
仏寺名 | 札所堂宇 | 御朱印墨書 | 宗旨宗派 | 所在地 |
四天王寺 | 亀井堂 | 亀井不動 | 和宗総本山 | 大阪市天王寺区四天王寺1丁目 |
清水寺 | 玉出の滝 | 大聖不動 | 和宗 | 大阪市天王寺区伶人町5 |
法楽寺 | 本堂 | 大聖不動明王 | 真言宗泉涌寺派大本山 | 大阪市東住吉区山坂1丁目 |
京善寺 | 本堂 | 除厄不動 | 真言宗御室派 | 大阪市東住吉区桑津3丁目 |
報恩院 | 境内 | 北向不動尊 | 真言宗醍醐派 | 大阪市中央区高津1丁目 |
太融寺 | 不動堂 | 一願不動 | 高野山真言宗準別格本山 | 大阪市北区太融寺町 |
国分寺 | 護摩堂 | みのり不動尊 | 真言宗国分寺派大本山 | 大阪市北区国分寺 |
大阪四不動霊場
東・西・南・北の四周(四合わせ/幸)を表す4か寺で構成される霊場ルート。
- 東:させん堂不動寺(真言宗山階派)、無動尊、大阪市城東区諏訪2
- 西:築港高野山釈迦院(高野山真言宗)、一願不動明王、大阪市港区築港1
- 南:護国山太平寺(曹洞宗)、北山不動尊、大阪市天王寺区夕陽丘町1
- 北:如意山了徳院(東寺真言宗)、大聖不動明王、大阪市福島区鷺洲2
お不動様あれこれ
お不動様は男性、観音様は女性?
本来はいずれもジェンダーを超越しています。
如来の慈悲を菩薩形と忿怒形とに分けると、観音菩薩と不動明王がそれぞれ代表。
観音様の穏やかさから女性という印象、お不動様の勇猛さから男性という印象です。
座り不動と立ち不動に分かれる?
- 座り不動(不動明王坐像)…大きく固い岩に座すお不動様は「動かざる故に尊し」の不動尊の性格を象徴
- 立ち不動(不動明王立像)…教化の難しい人間には降伏の威力を発揮するための性格を重視
なぜ剣を持つか?
仏の慈悲の道を優しく教えても、迷いにとらわれている人は永遠に安心立命できません。
不動明王は慧刀(降魔の剣)を持って、迷い(煩悩)を断ち切って、真実の智恵(悟り)に目覚めさせます。
なぜ索を持つか?
不動明王は索(羂索)を持って、私たちの悪い心や迷った心を縛りあげ、良心を起こさせ、如来の世界に引きあげてくれます。
頭上に蓮台を置く理由は?
悟りの世界に導く使命が強いからです。
酉年(干支)生まれの守り本尊?
お不動さまの光背は迦楼羅炎。
カルラ(迦楼羅、金翅鳥)が翼をひろげた形像が鶏に似ていることからの俗信。
赤不動・黄不動・青不動のちがいは?
古代インドで華美な色として根本五大色を荘厳に使っていました。
- 黄色…地
- 白色…水
- 赤色…火
- 黒色…風
- 青色…空
これらをもとに、お不動様は赤不動・黄不動・青不動に分かれています。
- 赤不動…円珍が感得した霊像で、自らの流血で描いたとされます(高野山明王院など)
- 黄不動…円珍が感得した霊像で、白帯がありません(三井寺、曼殊院など)
- 青不動…経軌によるともともと不動明王は青黒色でした(飛鳥寺玄朝様、青蓮院など)
日本の不動尊信仰のルーツは?
密教の大阿闍梨である恵果和尚から正式に、不動明王の拝み方、尊像の作り方、護摩修法などを受け継いだ弘法大師(空海)が、 多くのお不動様に関する経典や儀軌を日本へもたらしました。
のち、智証大師(円珍)も不動尊信仰を請来しました。
お不動様は神様ですか仏様ですか?
もともと、不動明王はインドのヒンズー教のシヴァ尊でした。
仏教の中に採り入れられ、仏教の教えを信じる人々の守護尊となりました。
お不動様は大日如来の教令輪身ですから仏様です。
不動尊信者としては神仏を区別することなく、お不動様そのままに信心するのが大事ですので、神様か仏様かの区別は不要です。
なぜ十三仏の第一番?
不動明王の御本は「降魔利生」が第一義。
生きとし生ける者ばかりでなく、死者すら降魔利生の対象にします。
冥界に旅立つ霊を惑わせる悪魔を降伏させ、死者をしてこの世への未練を断ち切らせるために、初めの忌日にいるわけです。
なぜ拝むとき観音経を唱える?
奈良時代以来、信者の願いによって観音様(観音菩薩)は三十三に変身し、十九種に法を説く「調伏息現世利益」の主尊として信仰されてきました。
空海の帰朝後、「現世祈禱済世利人」の不動尊信仰が盛んになり、観音十九種説法と、不動尊の十九観(十九の主な特徴)のご利益が混合。
この経緯から、観音経・般若心経・不動経が一緒に読誦されるようになったのでしょう。
観音様は胎蔵界曼荼羅の蓮華部院(観音院)に、不動尊は胎蔵界曼荼羅の五大院(持明院)に隣り合っています。
御相・形姿の特徴は?
右手に慧刀(利剣)、左手に羂索を持ち、大盤石上に座しています。背後に火焰光背が出現し、身体は青黒色。
怒った顔(忿怒形)で、額に水波紋の皺を浮かべ、牙歯を上下に噛み違えています。
頂上に蓮華をいただき、髪は七髷を結んで一髪を垂らしています。
火焰光背の意味は?
お不動様の火焔をカルラ焰といい、金翅鳥という伝説鳥の名前に由来します。
お不動様は毒をもった龍を食べることから、人々のあらゆる煩悩を食べて焼き尽くす不動明王のご利益を火焔は表現しています。
文化財
概説
教王護国寺講堂安置の木彫を最古として、不動明王の絵画・彫像はたくさんあります。
木彫
- 赤不動:高野山明王院蔵の画で、赤色身の大幅。円珍の感得と伝えられますが、二童子が右側にかたまって半身に構えた構図や筆致から南北朝時代の作品の可能性があります。
- 黄不動:国宝。園城寺の秘仏で円珍感得と伝えられます。直立不動の正面図で童子を従えていません。力強い描線で表現され大きく見開いた眼光が迫力に富みます。曼殊院(国宝)をはじめ模作が多いです。
- 青不動:国宝。青蓮院蔵の坐像で、最も儀軌にかなった画。玄朝作の不動図像と酷似した平安末期の作。迦楼羅焰の美しさも加わって三不動中の最高傑作では?
絵画
醍醐寺と教王護国寺に絹本着色と、信海筆の白描。ほかの粉本とともに醍醐寺が所有。
彫刻
高野山正智院・南院(波切不動)、観心寺・金剛寺(大阪府)、石山寺(滋賀県)・不退寺(奈良)・聖護院大覚寺(京都)の各所有が有名。
重要文化財
有形文化財
- 不動明王立像…1233年(鎌倉前期)木造、割矧ぎ造り、黒漆塗り古色仕上げ、玉眼。像高93.8cm、長岡市指定。指定年月日2013年3月25日、有形文化財(美術工芸品)→文化遺産オンライン
- 木造弥勒菩薩坐像及び木造不動明王坐像・木造愛染明王坐像…14世紀(南北朝時代)、木造、寄木造、玉眼嵌入。着衣漆箔・彩色。像高:弥勒菩薩52.7cm、不動明王28.8cm、愛染明王34.4cm。広島県指定、指定年月日2020年3月23日、有形文化財(美術工芸品)
眷属
脇侍(不動明王二童子)
左脇侍は向かって右、右脇侍は向かって左にあたります。
不動明王に、矜迦羅童子と制咤迦童子(不動明王二童子)をあわせて、不動三尊といいます。
制咤迦童子がそっぽを向いているバージョンもあり。
その事例が次の不動三尊です。
大阪市北区天六にある摂津国分寺では、この「水かけ不動尊」のほかに「みのり不動尊」というお不動さんもあり、不動明王が二つ安置した仏寺として、とても珍しいです。
四十八使者
左方
- 倶哩迦羅龍王:
- 健達藥叉王:
- 尸棄大梵王:
- 天五母夜叉王:
- 初禪若干大梵王:
- 二三四禪大明王:
- 三十三天各各天王:
- 阿迦尼多天王:
- 央倶將迦羅王:
- 修羅金縛王:
- 大鉢沙羅王:
- 拔苦婆多羅王:
- 多羅迦王:
- 牛頭密呪王:
- 光火炎摩王:
- 五天人散羅王:
- 神母大小諸王:
- 捶鐘迦羅大王(搥鐘迦羅大王とも音写する):
- 迦毘羅修法王:
- 藥叉諸天王:
- 三界授天大王:
- 倶多遷化天王:
- 火羅諸天王:
- 皆攝持天王:
右方
- 金剛修羅王:
- 神王引攝大王:
- 二十八宿諸大王:
- 一切諸法受用王:
- 迦葉大呪大士王:
- 一一各有大士王:
- 護持諸法王:
- 吽發多羅王:
- 蘇小拔苦王:
- 急急大小神天王:
- 那縛迦羅王:
- 悉底地大士王:
- 神王眷屬大智王:
- 摩登迦羅天人王:
- 天地受用大明王:
- 諸神皆得大王:
- 一一東西南北王:
- 密呪受持王:
- 迦葉大王:
- 沙羅仙大神王:
- 莫呪大呪大明王:
- 會集神王:
- 太一徳王:
- 一切諸神王:
三十六童子
- 矜迦羅童子:
- 制咤迦童子:
- 不動恵童子:
- 光網勝童子:
- 無垢光童子:
- 計子爾童子:
- 智慧幢童子:
- 質多羅童子:
- 召請光童子:
- 不思議童子:
- 羅多羅童子:
- 波羅波羅童子:
- 伊醯羅童子:
- 師子光童子:
- 師子慧童子:
- 阿婆羅底童子:
- 持堅婆童子:
- 利車毘童子:
- 法挾護童子:
- 因陀羅童子:
- 大光明童子:
- 小光明童子:
- 佛守護童子:
- 法守護童子:
- 僧守護童子:
- 金剛護童子:
- 虚空護童子:
- 虚空蔵童子:
- 宝蔵護童子:
- 吉祥妙童子:
- 戒光慧童子:
- 妙空蔵童子:
- 普香王童子:
- 善你師童子:
- 波利迦童子:
- 烏婆計童子:
不動八大童子
三十六童子の代表が不動八大童子です。
- 慧光童子:廻光菩薩とも。身色は黄色。少し忿怒形で、天冠を着て袈裟・瓔珞で荘厳し、右手に五智杵、左手に月輪のある蓮華を持っています。
- 慧喜童子:廻喜菩薩とも。身色は紅蓮、慈悲相で微笑。左手に摩尼珠、右手に三鈷鉤を持っています。
- 阿耨逹多童子:阿耨達菩薩とも。身は真金色、王の相。頭上に金鳥を頂き、左手に蓮華、右手に独鈷杵を持ち、龍に乗る。無垢清浄を表現。
- 指徳童子:志徳菩薩とも。夜叉形で身色は虚空に似て、三つの目。甲を着て左手・右手に三叉戟を持っています。
- 鳥倶婆誐童子:超越住世の意。五股冠を頂き、暴悪の形相。身色金色で右手に金剛杵を持ち、左手は拳印を結んで岩上に立っています。
- 清浄比丘:法宝を守護する意。比丘形(声聞形)で袈裟を着用。右肩を露出して腰に赤装を着け、非若非老の面相で、目は青蓮華をしています。上顎の牙が下向。左手に梵篋、右手に五鈷杵。
- 矜迦羅童子:緊迦羅。慈悲の化現で小心随順する意。身は肉白色で、15歳の童子の相。蓮華冠を頂き天衣と袈裟で飾っています。合掌してその間に独鈷杵を横にして挿む。不動明王の左脇侍。
- 制迦童子:扇迦尊者とも。不動明王の右脇侍。童子の相、身色は紅蓮色、五髷(頭頂と四周に結び五方五智を表示)、左手に金剛杵、右手に金剛棒を持っています。瞋心悪性のため袈裟を着けずに天衣を纏っています。白馬に乗る像もあり。
不動明王を安置・本尊とする大阪の仏寺リストはこちら。
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