概要
理趣経とは密教の極意。
真言宗各派で読誦される常用経典の一種で、書写・読誦・修習に用います。
ふつう、漢音で読誦します。。
梵語から中国語や日本語へと翻訳されていくなかで、理趣経は2種類が登場しました。
内容は近似しています。
- 「金剛頂経」十八会のうち第六会にあたる「理趣広経」を略した部分。
- 「般若経」の「大般若波羅蜜多経」のうち、第十会(般若理趣分)にあたる大楽金剛不空真実三摩耶経のうち般若波羅蜜多理趣品の部分。
略称に般若理趣経とも。
17段から成ります。
理趣とは道筋や道理趣旨のことで、仏身のうち理法身(智法身の対概念)に関わります。
始覚の智を極めると清浄本覚の理に適うようになります。
智法身の大日如来が金剛薩埵菩薩のために、般若理趣の立場から、「般若の理趣が清浄である」「一切諸法はもともと自性清浄である」と強調しています。
構成と内容
大楽不空金剛薩埵初集会品
十七清浄句は大楽思想の骨子で、一切の人間的欲望が肯定され、性欲でさえも清浄な菩薩の位置にあると表明。
欲望を単純に悪として否定せずに、般若の智慧をとおして、そのままで価値を転換させて絶対化します。
ここに、理趣経の現実肯定の意味があります。
現実的な欲望もそのまま絶対世界(真如・仏)に裏づけられた真実なので、本質的な清浄だと考えるわけです。
また、現実的な存在の私たちと、最高真実としての仏との一致融合を、両性の交渉によって生じる悦楽に替え、その仏凡一体の不二の境地を大楽または適悦といいます。
毘盧遮那理趣会品
般若理趣を四平等で説明しています。
四平等は次の構成です。
降三世品
教令輪身である降三世明王の三摩地に住して、四無戯論で説明。
四無戯論は次の構成です。
- 欲
- 瞋
- 痴
- 一切法
観自在菩薩般若理趣会品
観自在菩薩の三摩地に住して、四種清浄句で解説。
四種清浄句は次の構成です。
- 一切欲
- 一切垢
- 一切法
- 一切智智
虚空蔵品
宝生如来の変化身である虚空蔵菩薩の三摩地に住して、四種施で説明しています。
四種施は次の構成です。
- 灌頂
- 義利
- 法
- 資生
金剛拳理趣品
不空成就如来の三摩地に住して、四種印で解説しています。
四種印は次の構成です。
- 一切如来身
- 一切如来語
- 一切如来心
- 一切如来金剛
文殊師利理趣品
文殊菩薩の三摩地に住して、四種旋輪字輪の観照法門(般若思想)で説明。
観照法門(般若思想)は次の構成です。
- (諸法空
- 諸法無相
- 諸法無願
- 諸法光明
纔発心転法輪菩薩理趣品
四種平等性をもとに、金剛界大曼荼羅(大輪)に入る般若理趣を説明しています。
四種平等性は次の構成です。
- 金剛
- 義
- 一切法
- 一切業
虚空庫菩薩理趣品
四供養(菩提心)を発すことが一切如来 の広大な儀式だと述べています。
四供養は次の構成です。
- 発菩提心
- 救済一切衆生
- 受持妙典
- 般若波羅蜜
摧一切魔菩薩理趣品
四種忿怒性から解説しています。
四種忿怒性は次の構成です。
- 忿怒平等
- 忿怒調伏
- 忿怒法性
- 忿怒金剛性
降三世教輪品
普賢菩薩の三摩地に住して、四種性(つまり金・宝・蓮・羯の四曼荼羅)で説明しています。
四種性は次の構成です。
- 一切平等性
- 一切義利性
- 一切法性
- 一切事業性
外金剛会品
外金剛部の諸尊の三摩地に住して、四種智蔵を説明。
ほぼすべての般若理趣に言及。
如来蔵思想が現れています。
四種智蔵は次の構成。
- 如来蔵
- 金剛蔵
- 妙法蔵
- 羯磨蔵
(外金剛会品の延長3品)
以下の3品は外金剛会品の延長。
外金剛部院所属の諸尊を説明しています。
- 七母天集会品
- 三兄弟集会品
- 四姉妹集会品
四波羅蜜部大曼荼羅品
毘盧舎那如来が般若理趣の意を徹底して理解させるために、十七清浄句を受持し読誦することの功徳を述べています。
智慧は無量・無辺、一切法は一性究竟であると考えています。
五種秘密三摩地品
大慾・大楽・大菩提・摧大力魔・遍三界自在主の五秘密瑜伽を説明。
そして、大欲を成就し、ほぼすべてのものを救済し、大楽の最勝法門が完全に遂行される理由を述べます。
最後に、聴聞者の功徳と金剛薩埵の称讃で修了。
まとめ
理趣経の積極的な現実肯定の教えは、大乗仏教の考え、つまり煩悩即菩提や生死即涅槃を徹底。
これらに現実性を与えました。
成立
7世紀頃、般若経の一部に、理趣経の素材が芽生えました。
時代とともに密教的要素が加わって、実相般若・般若理趣経理趣百五十頌などの略本に展開した。
それには真実摂経の影響が大きい。
般若経から理趣経化する過程の教説・経典(シュリーパラマ)の一部か抄出が、理趣百五十頌。
その真言と口伝を増補してジニャーナミトラが依拠した理趣経の一類本が作られました。
さらに、真言儀軌が増大して現存の広本が成立しました。
見方を変えると、般若の空にもとづいた大乗仏教思想と真実摂経に代表される密教的色彩とが融合した経典が成立したわけです。
諸本
たくさんあります。
主なものを6点だけ挙げます。
- 大般若波羅蜜多経第十会般若理趣分1巻…玄奘訳・大般若経
- 実相般若波羅蜜経(略称・実相般若経や実相経)…①周・則天武后時の訳、②菩提流志訳 (10段、15清浄句)③空海訳・実相般若経釈
- 金剛頂瑜伽理趣般若経(略称・金剛頂理趣経)…金剛智訳(巻末に二十五道真言と13清浄句)
- 徧照般若波羅蜜経(略称・遍照般若経)宋・施護訳(14段、20清浄句、二十五種真言)
- 最上根本大楽金剛不空三昧大教王経 (別称・理趣経・七巻理趣経・不空三昧大教王・経根本大楽経)…法賢訳(十八会、第六会、25品)、般若教義を初会の金剛頂経思想で整理したもの
- 大乗儀軌王(別称・広経)…チべット訳、吉祥最勝本初と名づける
注書
- 不空…理趣釈(後述)、十七尊義述
- 空海…開題(3本あり)、真実経文句
- 頼瑜…文句、愚草
- 真寂…十七尊念誦次第法、済大楽経顕義
- 覚鑁…種子釈
- 道宝…秘決鈔、文観秘註
- 頼宝…訓読鈔
- 頼誉…私記
- 純瑜…直談鈔
- 玄広…愚解鈔
- 頼慶…仮名鈔
- 浄厳…講要
- 亮汰…純秘鈔
理趣釈
概要
理趣釈とは、理趣経の注釈書でもっとも重要なもの。
空海・円仁・円珍・恵運が請来しました。
真言宗(東密)では、本書から理趣経を解釈します。
本文にしたがって解説しているうえ、各品に曼荼羅をも説いています。
経文の補注として理趣経曼荼羅の成立を調べるためにも重要です。
書誌
- 真言宗…不空訳「金剛薩埵親撰」
- 天台宗…不空訳「不空撰」
正式名称
大楽金剛不空真実三昧耶般若波羅蜜多理趣釈
略称
般若理趣釈・理趣釈経・釈経・薩埵釈経
註書
- 円珍…難義1巻
- 道範…秘伝鈔2巻・聴海鈔6巻
- 有範…要秘決集6巻
- 杲宝…聞書5巻
- 杲宝口…頼宝記・秘要鈔12巻
- 曇寂…私記10巻
- 道空…私記22巻
- 僧黙…了義抄11巻
- 隆瑜…拾要記7巻
理趣経法
理趣経法(理趣法)とは、理趣経関連の経典や儀軌にもとづいて、滅罪・息災・敬愛のために行なう修法です。
経典や儀軌
よく不空訳を使います。
- 理趣経
- 理趣釈
- 理趣会軌(金剛頂瑜伽他化自在天理趣会普賢修行念誦儀)→理趣会
- 五秘密儀軌
- 大楽軌(大楽金剛薩埵修行成就儀軌)
など。
内容
理趣経の文言から、滅罪・息災を保証します。
- たとえ無量の重罪を行なったとしても、必ず一切の悪趣を超越する
- 蓮華が泥中にあっても汚されることがないように、諸欲にとらわれても、早く無上の悟りを証する
また理趣経の淫欲即是道の秘旨によって敬愛の法も兼ねます。
日本でのはじまり
日本では空海が、唐の恵果和尚の旧例に倣って、神護寺(京都市右京区)にて、822年12月11日から、五日三時の法を修したのがはじまりです。
どんな行法や次第によったかは不明ですが、真寂・一法界蘇哩耶法から推測できます。
東密通用の金剛界別行立の組織により、法性不二の大日如来を本尊としたものでしょう。
本尊
本尊は諸派によってさまざま。
たとえば、五秘密曼荼羅、理趣経序文の能説の曼荼羅、般若菩薩、理趣会の曼荼羅、金剛薩埵など。
行法・次第の組織
行法・次第の組織には、大法立と別行立などがあります。
理智不二の法性大日如来を本尊とする一法界蘇哩耶法にもとづく理趣法を最深秘とします。
現在、法性大日如来を本尊として両部別行立の組織が多く行なわれています。
理趣三昧
理趣三昧とは、 導師が理趣経法を修し、職衆が理趣経を読誦する法要のことです。
妄念を離れて三昧に入るので、こういいます。
3つのやり方があります。
- 最略式…譜を付けずに、平座で理趣経と四智・心略・不動の梵讃と懺悔・随喜の廻向文とを読誦
- 略式…平座で五悔・経・後讃・回向、また前讃を加えることも
- 広式…理趣経に中曲の譜をつけて、唄・散華の二箇法要を加え、付随して対揚、そのほか讃唱礼などを加えて行道(つまり法要附理趣三昧会、庭儀を行なうことも)
中曲の譜をつけて行なうことを中曲理趣三昧といいます。
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