多羅菩薩は、大乗仏教で信仰される女性の菩薩様です。梵名をターラーといい、観音菩薩の慈悲の光や涙から生まれたと伝えられます。別名を救度仏母、多羅仏母とも申し、すべての衆生を苦しみから救う母のような存在です。特にチベット仏教では大変人気があり、迅速に願いを叶える力をお持ちです。日本では密教の胎蔵界曼荼羅にそのお姿が描かれ、観音霊場の一つとしてもお祀りされています。この菩薩様は、慈悲深く速やかな救済を象徴する尊格なのです。
効用
多羅菩薩様をお祀りし、お祈りいたしますと、さまざまなご利益をいただけます。まず、火災、水難、獣害、盗難、牢獄などの八大怖畏からお守りくださいます。危急のときには即座に救護してくださるため、チベットでは「速勇母」とも呼ばれます。また、病気を癒し、健康を回復させる力も強うございます。緑色の光を放つ甘露で身心を浄化し、免疫力を高め、気色を良くしてくださいます。
さらに、事業や学業の成功、富貴の増進、賢瓶如意のご加護もあります。願い事を速やかに成就させ、貴人との出会いや機会を増やしてくださいます。特に女性の方には、求子、婚姻、美容のご利益が顕著です。寿命を延ばし、福徳を積み、智慧を増進させる功徳もございます。魔障や邪気を払い、内心の平穏をもたらします。亡くなった方への回向にも用いられ、苦しみを抜き楽を与えます。
古来、龍樹菩薩やアティーシャ尊者もこの法門を修め、戦争や疫病を鎮め、一切の災難を除く勝利を得たと伝えられます。真言を唱え、礼拝いたしますと、息災・増益・敬愛・調伏の四事業が成就します。日常の小さな悩みから大きな困難まで、母親が子を守るようにお見守りくださるのです。
このように、多羅菩薩様の効用は広大無辺で、現代の忙しい生活の中でも心の支えとなります。お祈りするたびに、慈悲の雨が降り注ぎ、乾いた心を潤してくださいます。
形姿
多羅菩薩様のお姿は、十六歳の美しい少女のようでございます。一面二臂で、穏やかな慈悲の表情を浮かべています。身の色は主に緑色で、生命の躍動と希望を表します。白色のものもございますが、緑多羅が最も一般的です。頭には五仏冠を戴き、耳環、頸飾り、腕釧、足釧などの荘厳な装飾を身に着け、天衣をまといます。
右手は右膝の前に垂らし、掌を外に向けた与願印を結び、衆生の願いを叶えることを示します。左手は胸前に青い蓮の花、優鉢羅華を持ち、慈悲の眼差しを象徴します。坐姿は遊戯坐で、右足を軽く前に伸ばし、左足を半跏趺坐にします。これは、いつでも素早く衆生のもとへ駆けつける速疾の姿勢です。お姿全体が優美で、S字のようなしなやかな曲線を描き、動的な慈悲を感じさせます。
日本では曼荼羅の中で描かれることが多く、中年女性のような穏やかな像容の場合もありますが、基本は若々しく活力あふれる少女の姿です。宝冠や蓮華の細部まで美しく、観る者に安らぎと力強さを与えます。この形姿は、多羅菩薩様が智慧と慈悲を兼ね備えた救済者であることを視覚的に表しています。

多羅菩薩。国訳秘密儀軌編纂局編『新纂仏像図鑑』地之巻、仏教珍籍刊行会、1932年、162頁。

多羅菩薩。国訳秘密儀軌編纂局編『新纂仏像図鑑』地之巻、仏教珍籍刊行会、1932年、163頁。

多羅菩薩。国訳秘密儀軌編纂局編『新纂仏像図鑑』地之巻、仏教珍籍刊行会、1932年、163頁。

多羅菩薩。国訳秘密儀軌編纂局編『新纂仏像図鑑』地之巻、仏教珍籍刊行会、1932年、164頁。
意味
多羅菩薩の名前の意味は深うございます。梵語のターラーは「瞳」や「星」を表し、観音菩薩の右目から放たれた光が化現したことを示します。また「救度」、すなわち苦しみの海から衆生を渡す救済者の意味もございます。この二つの意味が融合し、慈眼で一切を見守り、即座に救う菩薩様の性質を表します。
由来では、観音菩薩が衆生の苦しみに涙を流され、その涙から白多羅と緑多羅が生まれたとされます。あるいは、王女イェシェ・ダワが女身のまま成仏を誓い、度母となった故事もあります。いずれも、女性の身体で衆生を済度するという大願を象徴します。諸仏の母とも呼ばれ、一切の仏を生み出す智慧の化身です。
密教では、観音部の仏母として位置づけられ、胎蔵界曼荼羅の蓮華部院に配されます。風を司り、活動力を表します。この意味は、静かな慈悲だけでなく、動的な救済の力を併せ持つ点にあります。母親が子を育むように、すべての生き物を守り、仏法の雨で潤す存在なのです。
さらに、二十一尊の多羅菩薩があり、それぞれ異なる誓願と功徳を持ちます。全体として、多羅菩薩様は大悲の極致を体現し、男女の区別を超えた平等の救済を意味します。日本においても、空海大師が請来した曼荼羅を通じて、この深い教えが伝えられています。
所蔵
大阪市内
大阪市内では、多羅菩薩様の独立した尊像を常時お祀りする著名な寺院は少ない状況です。ただし、真言宗や天台宗の寺院では、胎蔵界曼荼羅の中にそのお姿が描かれている場合がございます。また、北区や中央区などに仏像専門店がございます。そこで緑多羅菩薩や白多羅菩薩の美しいお像を拝見したり、購入したりすることができます。日常的に慈悲の守護を求める方々が、これらの店を訪れています。
大阪の密教寺院では、修法の際に多羅菩薩様を本尊とする機会もあり、間接的にご縁を感じることができます。大阪市内在住の方は、こうした場所で心のよりどころを見出せます。将来、特別展などで貴重なお像が公開される可能性もございます。
全国
全国的には、多羅菩薩様のお像や曼荼羅は多くの密教寺院で所蔵されています。京都府伏見区の勝念寺には、中国元代から明代初期の金銅製緑多羅菩薩座像がございます。これは日本で最も古いチベット仏教系の多羅像の一つとされ、織田信長公ゆかりの寺宝です。美しい十六歳の少女姿で、胸に青蓮華の痕跡を残しています。
同じく京都の嵯峨大覚寺門前にある青蓮庵では、多羅菩薩様を本尊とし、チベット式のタンカ図像をお祀りしています。庵主が修法を重ねる大切な尊格です。仙台市の松音寺にも緑多羅菩薩像が安置され、右足を前に出した速疾の姿勢が特徴です。
さらに、東寺や高野山の曼荼羅、御室曼荼羅などでは詳細に描かれ、日本中の真言宗寺院でご縁があります。三十三観音の一つとして多羅観音をお祀りする霊場も全国に点在します。これらの所蔵は、多羅菩薩様の教えが日本仏教に深く根付いていることを示しています。参拝の際には、曼荼羅を拝観し、ご利益を祈願なさるとよいでしょう。


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