ここでは浄土教や浄土宗などの仏教宗旨や仏教観に影響を与えた浄土(浄土観)について説明しています。
概要
浄土は穢土の対語で、悟りを開いた如来や悟りを開く菩薩の住む清浄な場所のことです。
浄刹・浄界・仏土・仏界・仏刹・仏国などはすべて同義語。
種類
十方浄土とは
諸仏の浄土はあらゆる方向にあり、十方浄土といいます。
具体的に、東・西・南・北・上・下・四維(東南・西南・東北・西北)の方角に、それぞれ対応する仏尊と浄土が設定されています。
たとえば、
など。
これらはすべて如来や菩薩の浄土です。
穢土の考え方
しかし、このような定まった浄土に対して、現実世界を穢土とする考え方は密教的な浄土観とはいえません。
顕教においても、心浄土浄とか、娑婆即寂光とかいう考え方があります。
- 心浄土浄…清浄な心をもてば穢土も浄土。
- 娑婆即寂光…悟ってみれば、穢れ多い娑婆すら浄土。
こんにちの浄土観と阿弥陀信仰
西方浄土・往生思想が盛んになってから、とくに西方十万億土の極楽をさして浄土というようになりました。
いわゆる阿弥陀如来の極楽浄土です。
なお、阿弥陀如来の信仰を説く教えを浄土教といいます。
また、阿弥陀如来の浄土を描いた絵図を浄土曼荼羅(→浄土変相図)といいます。
ほかにも、阿弥陀信仰の広がりを確認できるものはたくさんあります。
そのうち、にわかには信じがたい高野山における阿弥陀信仰の一抹をお伝えします。
高野山における阿弥陀信仰
高野山に現存する阿弥陀如来像(金剛峰寺蔵、1087年製作)、丈六像(地蔵院蔵)、阿弥陀堂本尊(1151年製作)は高野山に浄土信仰の一端を語ります。
覚鑁上人
その頃、覚鑁上人(1095年〜1143年)は高野山に登り、往生院に住む別所聖の青蓮に、ついで真言念仏の人五室谷の明寂に投じました。
二人の師僧につくことで、密教と浄土教とを融合し、弥陀即大日、西方浄土即密厳浄土を説きました。
ここで、空海説の即身成仏に往生成仏を加え、現身に成仏できなくとも、口称念 仏によって極楽浄土に往生して成仏できる糸口を提唱。
のち、真言念仏(秘密念仏)の理論的根拠となりました。
二十五三味講の念仏結社
1217年、高野山に二十五三味講の念仏結社が誕生。
高野山新別所では、全国七個所の不断念仏の一つに数えられました。
- 明遍創始の蓮華三昧院本尊の阿弥陀三尊立像(遍照光院蔵)
- 明遍が法然から伝えたとする阿弥陀三尊図(1195年)
- 光台院本尊(弥陀三尊、1220年代製作)
これらは当時の弥陀信仰の隆盛を物語ります。
浄土観のパターン
浄土のとらえ方は仏教各宗旨でいろいろ。
密教
浄土を大日法身如来の蓮華蔵世界ともいい、おもに密厳国土・密厳浄土・密厳世界ともいいます。
密教の浄土は三密無尽の万徳をもって荘厳された仏土であり、両部大日法身の曼荼羅海会の境界を浄土とします。
したがって、十方如来の浄土は、ことごとくこの中にあるといえます。
真言密教
真言密教においても弥陀思想や念仏思想は初期から出現。
密教教理から阿弥陀如来を解釈して念仏する覚銭・道範たちの秘密念仏が代表的です。
阿弥陀如来観(覚鑁の秘釈)
五輪九字秘釈・阿弥陀秘釈・秘密念仏鈔など、密教の念仏思想(とくに覚鑁の秘釈)によると、阿弥陀如来はたんなる西方の教主ですが、3重の秘釈(4重の区別)を立てています。
- 初重…法蔵比丘が成仏せるもの(浅略)
- 二重…大日の一門を主ったもの(深秘)
- 三重…大日即弥陀(秘中の秘)
- 四重…衆生本具の心即弥陀(秘々中の秘)
このように、阿弥陀如来に四重の区別を立てることで、名号・国土にも四重の解釈が出てきます。
- 極楽浄土…たんに劣機誘引の方便の説。真実の極楽は自己本具の両部曼荼羅開顕の位として、密厳仏国土が真の浄土。
- 西方十万億土…〈西方〉は方角ではなく愛楽の表幟で、〈十万億土〉は距離ではなく仏智の表幟であり、仏の十智に万徳を具するから十万億土。
- 極楽往生…未来に往き生ずる意味ではなく、悟りに往き生ずることで成仏の異名。即身成仏を現身往生というのはこのため。
- 四十八願…凡夫本具の仏徳、即ち六道の衆生に八葉の仏を具すること。
これまで、明遍僧都の如き念仏行者や、高野聖の名をもって呼ばれる念仏行者が現われましたが、密教の浄土観は覚鑁の秘釈で理解するのが妥当と考えられています。
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