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仏教に触れる:「楽園の瑕」にみる動揺とカタストローフ

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上映・放映情報

映画「楽園の瑕」・「楽園の瑕 終極版」の映画上映やテレビ放映される情報を書き出しています。

案内ページもご紹介していますが、上映や放映の時期が過ぎれば削除されている場合もあるのでご了承ください。

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仏教に触れる:「楽園の瑕」にみる動揺とカタストローフ

「楽園の瑕」は、金庸の有名な小説をもとにしたウォン・カーウァイ監督の映画です。

心の揺れをカタストローフ満載に描いた時代劇。1994年に公開されました。

ウォン・カーウァイ監督『楽園の瑕』香港、1994年。原題「東邪西毒」、英題「Ashes of Time」。

Yui Mukasa @yuifabulous (instagram)

概略

オープニングに展開されるリード文の一部が本作品の特徴を示しています。

この映画は現代武侠小説の第一人者金庸の「射鵰英雄伝」に登場した老人たちの若き日々の物語である。

そこには名剣士になる野心よりも、愛に生き愛に翻弄される姿が描かれている。

ウォン・カーウァイ「楽園の瑕」 (c) 1994 Scholar Films Co., Ltd.

人生のすべてを諦めること、人生のすべてに負けを認めること、そして一人悲しみ切ること。仏教をはじめとする東洋思想の一面がこの映画に凝縮されている、このように思います。

恋情だけで人を切り倒す剣士たちのチャンバラや秘技が見物です。そのうえ、キャストたちの独白シーンがとても引き締まり散文的に仕上がっています。

みどころ(満載)

ウォン・カーウァイ唯一の武侠映画で、複数のエピソードそれぞれを独自に展開させながら台詞(独白)で強引にまとめ上げる手法が際だっています。

作品全体に高く評価できるのは、本来の時代劇というべき全ての被写体を風景として溶かし込んだ撮影角度にあります。それは男性キャストの肌の色を土の色に重ね合わせた点に象徴的です。

そして、この作品でも全てのキャストが持ち前の良さを引き出しています。

中でも破格の演技力を見せたのが洪七公を演じた香港の歌手ジャッキー・チャン。他監督の作品で作られてきた印象とは違う角度で俳優たちを照らし出しています。

この作品は難しいといわれる

この作品が難しいといわれるのは、人間関係やストーリーの難しさに関わります。登場人物の誰もが恋愛中毒で(正しいことですが)、一人一人対処の仕方が異なっています。この違いが「楽園の瑕」の醍醐味の一つです。

最も印象的なのは男装をした慕容嫣(ブリジット・リン演)に気づかない黄薬師(レオン・カーファイ演)。

「君は美男子だから、妹はきっと綺麗だろう。妹と結婚したい」と言ったものですから、慕容嫣は本当は存在しない妹になりすまして、黃藥師が家に来るのを毎日毎日待ち、待ちくたびれます。挙げ句の果てには二重人格になって発狂しました。

仏典曰く 旗なびかず 風なし 揺らぐは人の心なり

登場人物が滲みだしている「ひたむきな感じ」がとてもよく伝わる作品で、恋愛を軸に見た精神分析的な問題提起という反面、開放感溢れる爽やかな雰囲気を体感できます。

同時に、人は過去に縛られ今でも動揺するという閉塞感もにじみ出ていますが…。

おすすめの見方:原題どおり西毒と東邪に注目

本作品のおすすめはレスリー・チャン(欧陽峰=西毒役)の腹の底から聞こえてくる独白。

歐陽峰は、自分の住処にやって来る連中から殺人依頼を受け、別の知人たちにその依頼を引き受けさせるだけ。本人の動作は映画全体にほとんどありません。ですからレスリー・チャンは会話主体の演技になっています。

おまけにポーカー・フェイスの続く欧陽峰は作品全体で3つほどの表情をするだけ。でも、それがレスリー・チャンらしく淡々としている点、絶妙なんです。

またレオン・カーファイ(黄薬師=東邪役)の力強さも捨てがたいです。

レスリー・チャンは数少ない表情と演技で独白を中心にした役割を徹底して担わさました。作品の最後になると、レオン・カーファイが独白を継承し、歐陽峰の晩年を懐古的に話すようになります。

ここに来て、絶対的な主役と思われた歐陽峰を黃藥師がフォローした形で主役が逆転します。歐陽峰の立場が一気に相対化される展開は、ウォン・カーウァイの才腕に脱帽ものです。

トニー・レオンやブリジット・リンも見てね

目で語ることのできる俳優だとウォン・カーウァイが賞賛するトニー・レオンに対して、あえて「盲目の剣士」という役柄を割り当てました。また映像も不思議な具合で、音を深く聞こうとする剣士の目に焦点を当てています。

慕容嫣・慕容燕という二重人格上の兄妹の二役を務めたブリジット・リンの美貌が強烈です。秘技ともども楽しませてくれます。妹の慕容燕は二重人格のまま発狂し、独狐求敗という女剣士へとこの作品で変貌します。

まとめ

こんな具合で、登場人物ごとに焦点を変えたり、映像を観たり音を観たり(聴いたり)、何度見直しても新鮮な気分になれる暗い暗い映画です(笑)。

本文では触れませんでしたが、時間と愛と記憶をテーマにしたカタストローフ充満という点では、マギー・チャンの存在も忘れてはなりません。出演時間は短いのですが、彼女が演じた役は欧陽鋒の昔の恋人という設定。欧陽鋒の独白には、これでもかというほどたくさん出演しています。

商品情報

デジタル・リマスターされたような(見ていてイマイチ分かりませんでしたが)、少し映像や音楽の出入り処理を経たのがこちら(楽園の瑕 終極版)。

旧版の方が砂漠の風景と当時の映像の限界がいい具合に絡まっています。

キャスト

  • 歐陽峰=西毒:レスリー・チャン(張國榮)
  • 黃藥師=東邪:レオン・カーファイ(梁家輝)
  • 慕容嫣&慕容燕→独孤求敗:ブリジット・リン(林青霞)
  • 盲目の剣士(盲劍客):トニー・レオン(梁朝偉)
  • 西毒の兄嫁(歐陽峰之嫂子):マギー・チャン(張曼玉)
  • 桃花:カリーナ・ラウ(劉嘉玲)
  • 洪七(洪七):ジャッキー・チャン(張学友)
  • 洪七の妻(洪七之妻):バイ・リー(白麗)
  • 孤女(孝順女子):チャーリー・ヤン(楊采妮)

スタッフ

  • 監督:ウォン・カーウァイ
  • 脚本:ウォン・カーウァイ
  • 撮影:クリストファー・ドイル
  • 美術:ウィリアム・チャン
  • 音楽:フランキー・チャン
  • 編集:パトリック・タム、ウィリアム・チャン、カイ・キットウァイ、クォン・チリョン
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この記事の著者
自転車遍路
ホットケーキ

こんにちは。仏寺めぐり大阪を運営するホットケーキです。ネコが大好き(^^) 大阪市内の仏寺に勤務するかたわら、自転車遍路中。各SNSやGoogleニュースにてシェアやフォロー大歓迎。詳しいプロフィールお問い合わせもご覧ください♪

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うっとりする仏像
菩薩半跏像(半跏思惟像)

モデルは奈良県の国宝「木造菩薩半跏像」。
平安時代に密教が流行したとき、如意輪観音の右第一手が思惟相でした。

坐法も輪王坐で片膝を立てるのに似ているため、長らく如意輪観音と考えられてきました。

近年、儀軌以前の作品では、弥勒菩薩の可能性が高いと考えられています。日本では奈良時代以前の作品がこれに当たります。韓国でも弥勒菩薩だとみる説が有力です。

如意輪観音

モデルは大阪府の国宝「木造如意輪観音坐像」。
如意輪観音にょいりんかんのんとは観音菩薩のうち変化観音の一つで、六観音(七観音)にも数えられます。左手に如意宝珠という宝玉を、右手に輪を持っています。

  • 如意は宝珠で、法輪をもって衆生の願望を成就させる意味。
  • 延寿・安産・除難を祈って功徳あり。

三昧耶形は如意宝珠、紅蓮華。正式名称は如意輪観世音菩薩。

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